和歌と俳句

星野立子

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橘の花や従ふ葉三枚

三段に重り見ゆる新樹かな

花葵西日さし抜け一軒家

麦打の音近づきゆきにけり

麦埃うすくなりつつ又立てる

泳ぎゐる潮の冷たき海月かな

手つなぎてうかれ通る娘しぶき

土用浪砂浜広く賑やかに

真青な葉の花になり百日紅

咲きがけは百日紅も花やさし

月見草に風が吹くなり人跼む

山百合の見ゆるほどなる山遠さ

雨の日々百合のさかりも過ぎにしや

草深く山百合咲きて現れし

彼の山の夕立雲をぬぎかけし

雨急や車窓締む間の百合の香を

縁側にもぎしトマトとモスキトン

駅長の室の向日葵すだれ越し

よきみくじ四つに畳んで単帯

松蝉や幼きころのものがたり

旅疲れ少しもあらず若葉風

新樹より風少しづゝ著莪の花

帽とりて並び詣でや若楓

衣更へてしぼりの帯と扇子かな

とつぎたる妹は新居に更衣