和歌と俳句

山部赤人

沖つ島荒磯の玉藻潮干満ちい隠りゆかば思ほえむかも

若の浦に潮満ち来れば潟をなみ葦辺をさして鶴鳴き渡る

み吉野の象山の際の木末にはここがも騒く鳥の声かも

ぬばたまの夜の更けゆけば久木生ふる清き川原に千鳥しば鳴く

あしひきの山にも野にも御狩人さつ矢手挟み騒きてあり見ゆ

朝なぎに楫の音聞こゆ御食つ国野島の海人の舟にしあるらし

沖つ波辺波静けみ漁りすと藤江の浦に舟ぞ騒ける

印南野浅茅押しなべさ寝る夜の日長くしあれば家し偲はゆ

明石潟潮干の道を明日よりは下笑ましけむ家近づけば

玉藻刈る唐荷の島に島廻する鵜にしもあれや家思はずあらむ

島隠り我が漕ぎ来れば羨しかも大和へ上るま熊野の船

風吹けば波か立たむとさもらひに都太の細江に浦隠り居り

須磨の海女の塩焼き衣の慣れなばか一日も君を忘れて思はむ

ますらをは御狩に立たし娘子らは赤裳裾引く清き浜びを

神代より吉野の宮にあり通ひ高知らせるは山川をよみ

春の野にすみれ摘みにと来し我れぞ野をなつかしみ一夜寝にける

あしひきの山桜花日並べてかく咲きたらばいたく恋ひめやも

我が背子に見せむと思ひし梅の花それとも見えず雪の降れれば

明日よりは春菜摘むまむと標めし野に昨日も今日も雪は降りつつ

百済野の萩の古枝に春待つと居りしうぐひす鳴きにけむかも

恋しけば形見にせむと我がやどに植ゑし藤波今咲きにけり

あしひきの山谷越えて野づかさに今は鳴くらむうぐひすの声