和歌と俳句

柿本人麻呂歌集

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白鳥鷺坂山松影宿而往奈夜毛深往乎

白鳥の鷺坂山の松蔭に宿りて行かな夜も更けゆくを

■干人母在八方沾衣乎家者夜良奈羈印

あぶり干す人もあれやも濡れ衣を家には遣らな旅のしるしに

在衣邊著而榜尼杏人濱過者戀布在奈利

あり衣の辺つきて漕がに杏人の浜を過ぐれば恋しくありなり

高嶋之阿渡川波者驟鞆吾者家思宿加奈之弥

高島の安曇川波は騒けども我れは家思ふ宿り悲しみ

客在者三更刺而照月高嶋山隠惜毛

旅にあれば夜中をさして照る月の高島山に隠らく惜しも

吾戀妹相佐受玉浦丹衣片敷一鴨将寐

我が恋ふる妹は逢はさず玉の浦に衣片敷きひとりかも寝む

玉匣開巻惜■夜矣袖可礼而一鴨将寐

玉櫛笥明けまく惜しきあたら夜を衣手離れてひとりかも寝む

細比礼乃鷺坂山白管自吾尓尼保波尼妹尓示

栲領巾の鷺坂山の白つつじ我れににほはに妹に示さむ

妹門入出見川乃床奈馬尓三雪遺未冬鴨

妹が門入り泉川の常滑にみ雪残れりいまだ冬かも

衣手乃名木之川邊乎春雨吾立沾等家念良武可

衣手の名木の川辺を春雨に我れ立ち濡ると家思ふらむか

家人使在之春雨乃与久列杼吾等乎沾念者

家人の使にあらし春雨の避くれど我れを濡らさく思へば

■干人母在八方家人春雨須良乎間使尓為

あぶり干す人もあれやも家人の春雨すらを間使にする