和歌と俳句

柿本人麻呂歌集

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垂乳根乃母之手放如是許無為便事者未為國

たらちねの母が手離れかくばかりすべなきことはいまだせなくに

人所寐味宿不寐早敷八四公目尚欲嘆

人の寝る味寐は寝ずてはしきやし君が目すらを欲りし嘆かむ

戀死戀死耶玉桙路行人事告無

恋ひ死なば恋ひも死ねとや玉桙の道行く人の言も告らなく

心千遍雖念人不云吾戀■見依鴨

心には千重に思へど人に言はぬ我が恋妻を見むよしもがも

是量戀物知者遠可見有物

かくばかり恋ひむものぞと知らませば遠くも見べくありけるものを

何時不戀時雖不有夕方任戀無乏

いつはしも恋ひぬ時とはあらねども夕かたまけて恋はすべなし

是耳戀度玉切不知命歳経管

かくのみし恋ひやわたらむたまきはる命も知らず年は経につつ

吾以後所生人如我戀為道相与勿湯目

我ゆ後生まれむ人は我がごとく恋する道にあひこすなゆめ

健男現心吾無夜晝不云戀度

ますらをの現し心も我れはなし夜昼といはず恋ひしわたれば

何為命継吾妹不戀前死物

何せむに命継ぎけむ我妹子に恋ひぬ前にも死なましものを

吉恵哉不来座公何為不厭吾恋乍居

よしゑやし来まさぬ君を何にせむいとはず我れは恋ひつつ居らむ

見度近渡乎廻今哉来座恋居

見わたせば近き渡りをたもとほり今か来ますと恋ひつつぞ居る

早敷哉誰障鴨玉桙路見遺公不来座

はしきやし誰が障ふれかも玉桙の道見わすれて君が来まさぬ

公目見欲是二夜千歳如吾恋哉

きみが目を見まく欲りしてこの二夜千年のごとも我は恋ふるかも