和歌と俳句

柿本人麻呂歌集

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璞之年者竟杼敷白之袖易子少忘而念哉

あらたまの年は果つれど敷桍の袖交へし子を忘れて思へや

白細布袖小端見柄如是有戀

白桍の袖をはつはつ見しからにかかる恋をも我れはするかも

我妹戀無乏夢見吾雖念不所寐

我妹子に恋ひすべながり夢に見むと我れは思へど寐ねらえなくに

故無吾裏紐令解人莫知及正逢

故もなく我が下紐を解けしめて人にな知らせ直に逢ふまでに

戀事意追不得出行者山川不知来

恋ふること慰めかねて出でて行けば山を川をも知らず来にけり


處女等乎袖振山水垣乃久時由念来吾等者

をとめらを袖布留山のみづ垣の久しき時ゆおもひけりわれは

千早振神持在命誰為長欲為

ちはやぶる神の持たせる命をば誰がためにかも長く欲せむ

石上振神杉神成戀我更為鴨

石上布留の神杉神さびて恋をも我れはさらにするかも

何名負神幣嚮奉者吾念妹夢谷見

いかならむ名負ふ神にし手向けせば我がおもふ妹を夢にだに見む

天地言名絶有汝吾相事止

天地といふ名の絶えてあらばこそ汝とわれとあふことやまめ

月見國同山隔愛妹隔有鴨

月見れば国は同じぞ山へなり愛し妹はへなりたるかも

■路者石踏山無鴨吾待公馬爪盡

来る道は岩踏む山はなくもがもわが待つきみが馬つまづくに

石根踏重成山雖不有不相日數戀度鴨

岩根踏むへなれる山はあらねどもあはぬ日まねみ恋ひわたるかも

路後深津嶋山暫君目不見苦有

みちのしり深津嶋山しましくも君が目見ねば苦しくありけり

紐鏡能登香山誰故君来坐在紐不開寐

紐鏡能登香の山の誰がゆゑか君来ませるに紐とかず寝む