和歌と俳句

柿本人麻呂歌集

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淡海奥嶋山奥儲吾念妹事繁

近江の海おきつ嶋山奥まけてあがおもふ妹をことの繁しく

近江海奥滂船重下蔵公之事待吾序

近江の海おきこぐ舟のいかり下ろししのびてきみがこと待つわれぞ

隠沼従裏戀者無乏妹名告忌物矣

隠り沼のしたゆ恋ふればすべをなみ妹が名告りつ忌むべきものを

大土採雖盡世中盡不得物戀在

おほつちは採り尽すとも世の中の尽しえぬものは恋にしありけり

隠處澤泉在石根通念吾戀者

隠りどの澤泉にある岩が根も通してぞおもふあが恋ふらくは

白檀石邊山常石有命哉戀乍居

しらまゆみ石辺の山の常磐なる命なれやも恋ひつつ居らむ

淡海々沈白玉不知従戀者今益

近江の海沈く白玉知らずして恋せしよりは今こそまされ

白玉纒持従今吾玉為知時谷

白玉をまきてぞ持てる今よりはわが玉にせむ知れる時だに

白玉従手纒不忘念何畢

白玉を手にまきしより忘れじとおもひけらくは何かをはらむ

白玉間開乍貫緒縛依後相物

白玉の間開けつつ貫ける緒もくくりよすれば後もあふものを

香山尓雲位桁曳於保々思久相見子等乎後戀牟鴨

香具山に雲いたなびきおほほしく相見し子らを後恋ひむかも

雲間従狭徑月乃於保々思久相見子等乎見因鴨

雲間よりさわたる月のおほほしく相見し子らを見むよしもがも

天雲依相遠雖不相異手枕吾纒哉

天雲のよりあひ遠みあはずとも異し手枕われまかめやも

雲谷灼發意追見乍居及直相

雲だにもしるくしたたばなぐさめて見つつも居らむ直にあふまで