ぬぎかへてかたみとまらぬ夏衣さてしも花のおもかげぞたつ
菅の根や日かげもながくなるままにむすぶばかりに茂る夏草
卯の花の垣根もたわにおける露ちらずもあらなむ玉にぬくまで
もろかづら草のゆかりにあらねどもかけてまたるるほととぎすかな
あやめふく軒のたちばな風ふけば昔にならふ今日の袖の香
いかばかりみ山さびしとうらむらむ里なれはつるほととぎすかな
ほととぎすなにをよすがにたのめとて花たちばなの散りはてぬらむ
たが袖を花たちばなにゆづりけむ宿はいくよとおとづれもせで
わがしめし玉江の蘆のよをへては刈らねど見えぬ五月雨のころ
夏草の露わけ衣ほしもあへずかりねながらに明くるしののめ
片糸をよるよる峯にともす火にあはずば鹿の身をもかへじを
荻の葉もしのびしのびに聲たててまだき露けき蝉のはごろも
夏か秋かとへどしらたま岩ねより離れて落つるたきがはの水
今はとて有明のかげの槇の戸にさすがに惜しき水無月の空
今日こそは秋は初瀬の山おろしに涼しくひびく鐘のおとかな
白露に袖も草葉もしをれつつ月かげならず秋は来にけり
秋といへば夕べのけしきひきかへてまだゆみはりの月ぞさびしき
いくかへりなれても悲し荻原や末こすかぜの秋のゆふぐれ
ものおもはばいかにせよとて秋の夜にかかる風しも吹きはじめけむ