心をば 松にかけつつ 武隈の ふたきの千代を ともにいははむ
まちうべき 人はなにかは かりそめの 別れに袖を かくは濡らさむ
東路の 方ときくとも われはいさ 心づくしの 別れとぞおもふ
都鳥 見えむわたりは おもひいでよ ありやなしやの 情けばかりを
わが心 そへてしやれば 旅衣 たちわかるとも おぼえざりけり
みやこいでて ひとりあかしの 旅のうらに ありす顔なる ともちどりかな
旅寝する われならなくに 逢坂の 関やま鳥も ひとりなくなり
みやここそ おもへば旅寝 つひにわが これはふすべき 野辺にはあらずや
君ますと かねて知りせば いとどしく つなてを急ぐ 旅にやあらまし
ま舵取り もろてに急げ かけて漕ぐ ゑじまの沖に 夕日さかりぬ
夜をこめて 我はたちぬる 旅のいほに なほ有明の 月ぞやどれる
さてもよを ふるかとみるぞ あはれなる 霞にまがふ 沖つ島守
はるばると おき漕ぐ舟の あとみれば 昔の人の 心しられぬ
有馬山 たかはかりしき 夜もすがら ふしもさだめぬ 草枕かな
かへりみし みやこの山も 隔て来ぬ ただ白雲に むかふばかりぞ
みやこのみ 恋ひしき旅の うきねには うらうへかくる 袖のしらなみ
みやこ人 おなし月をば ながむとも かくしも袖は 濡れずやあるらむ
来し方も また行く先も いかにこは 雲と浪とに なりはてぬらむ
千載集・羇旅
もしほ草 敷津の浦の 寝覚めには しぐれにのみや 袖はぬれける
千載集・雑歌
数ならで 年へぬる身は 今さらに 世を憂しとだに 思はざりけり
新勅撰集・雑歌
とりべやま こよひもけぶり たつめりと いひてながめし ひともいづらは