和歌と俳句

川島彷徨子

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池の面ながれてゐたり夕焼

朝焼に廂は雫たらしゐき

落葉松林人をひとりにかへらしむ

草萎えて吾亦紅のみ丈にたつ

色うすき龍胆摘みてみれば濃し

日かげりてにはかに小さき冬の沼

野の沈黙榛の木肌のひかるさへ

刈跡の田に疳だかきわれの

父よ貧し褞袍をわれにゆづりたまへる

川の淵寂寥は雪山よりくるか

磊塊と磧の石は冬もしろし

家離り枯桑のみがかさなりくる

わが視界榛の木伐りのうごくのみ

榛の木の伐られし畷末黒なす

榛の木の丈まではたつ寒の靄

みかへれば雪野のひかり榛にそふ

雪山みゆるこの坂いつも埃まく

榛咲けり溝には去年の水さびて

火鉢より吾子みてあれば妻もみつむ

毛布のなか子の高熱にぬれてゐぬ

わが血子に移せりふりきたる

つひに冷え冷えかたまりし吾子の顔

抱きをるや吾子ぬくもりてくるごとし

雨冷えて吾子を寝棺にうつしがたし

吾子あらず妻が春夜の冷えをいふ

雨戸繰る眼のやりどころ桜草

榛の花仰げばぎらと空ゆらぐ

春の雷吾子ありし日をはるけくす

VILLAと読まれ紫陽花と錆びてゐる館

海へゆくにはまだはやきピアノ鳴つてゐる

大きがゑひどれのごとく先ゆけり

海へいそぐ李あをきをふりかへり

一泳ぎしてくればしたし葭簾小屋

甃カンナの家をたかくして

驟雨くる気配八つ手に椎にみつ

硝子窓隅にゆくほど夕焼濃し

稲架とほきあたり千樫の里とみつ

橄欖岩そがれつめたき肌さらす

秋の潮あかるく屋根にあふれゐぬ

風たつやはつきりと日向だく

豊沢川垢あつく涸れゐたりけり

北上川さむざむと遠く紺たたふ

冬雲のまばゆきをつつみ空暗し

鴨がひく波光櫟の幹にさす

巣箱かかるどの木も落葉あつく敷く

鰯雲一列月へすすみゆく

月にさらすわが顔われに見え冴ゆる

片淵をなして田の堀涸れにけり

畦の路まがるやわれもけり

雪の冷え事務所にかへりくればいづ