和歌と俳句

釈迢空

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尾張ノ少咋のぼらず。年満ちて、きのふも 今日も、人続ぎて上る

つくしの遊行嬢子になづみつつ、旅人は 竟に還りたりけり

よき司 われは持たらぬ憶良ゆゑ、汝がゐやまひは、受け得ずなりたり

国遠く、我におぢつつ 汝が住みてありと思ふ時 悔いにけるかも

何ごとも 完にをはりぬ。息づきて 全く霽けむ心ともがな

寛恕なき我ならめや。汝を瞻るに、心ほとほと息づくころぞ

庭の木の古葉掃きつつ、待ちごころ失せにし今を 安しと思はむ

めひ

わが家のひとり処女の、常黙すさびしきさがを 叱りけり。わが

をとめはも。肩の太りのおもりかに、情づかず見えし その後姿はも

われの家にをとめとなりて、糾ね髪 たけなるものを 死なせつるかも

茨田野の水湧き濁る塚原を、処女の家と 思ひ堪へめや

あきらめてをり と告げ来る 汝が母のすくなきことばは、人を哭かしむ

郡上八幡

焼け原の町のもなかを行く水の せせらぎ澄みて、秋近づけり

ゆくりなき旅のひと日に、見てあるけり。家亡びたる 山の町どころ

町びとは、いまだ愕くことやまず 家建ていそげり。焼け原の土に

焼け原の町の庭木は、幹焦げて 立ちさびしもよ。山風吹くに

夕されば、丘根吹きくだる山颪の青葉 散りわたる。焼け土の原

青山の山ふところはほこり立ち、夕日かすめり。焼け原のうへ

山の際にほこりたなびき うらがなし。夕日あらはに、町どころ見ゆ

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