和歌と俳句

釈迢空

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夜の茶

しばしばも あくびの起る 今宵かも。い寝むとしつつ 雨のおと聞ゆ

さ夜ふかく茶を 呑み飽けば い寝むと思ふ 汗をぬぐひて、床のうへに居り

零時近く

寝欲しさを こらへて 人にむかひ居り。をりをり おどろく。われのことば

この夜ふけて、机のうへにふりたまる 羽虫とぼしく なりにけるかも

別腸謔語

庭土のうへに、素足の踏みごこち。この こころよさも 忘れ居にけり

来しかたは、来しかたなり。今はもよ。よきねくたいの色も このまむ

腹だちて ほしきままにも 言ふわれか。人とある人を 虫 鳥にせり

まれ稀は われの煎る茶を 嘗めなめて、独り居よさ と ほめ行く人あり

我よりも 若き人 多くなりにけり。妻得させむ と つげに来るひと

昼のいこひ

静かなる ひと日なりけり。日ねもすに 心ねもごろのふみを 書きたり

もの言はむこころ頻発るを おちつきて、誰に書かむと、紙に向き居り

用もなき ふみを書く今日の 安らさの 意を知らむ人 なきにあらず

山畠の麦の葉生えを 踏み暮し 今日も経つとふ 古ぶみ。あはれ

のどけさの ゆふべ到りて 書き進み、告げむと思はぬ ことも書きたり

家の子

かどにいる すなはち 我をよびたてて、言ふ子のこゑの、なにぞ なごめる

わが家のわかき子ゆゑに、老いびとの ものねだりする心 たのしさ

疲れつつかへり来ぬらむ いへの子の わかきはだへを 洗はせにけり

うましもの 食はし たらはす 家の子の よろこびあさき心を まもる