和歌と俳句

釈迢空

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先生

山川のたぎちを見れば、はろばろに 満ちわかれ行く 音のかそけさ

山川の満ちあふれ行く 色見れば、命かそけく ならむとするも

夕かげに 色まさり来る山川の 水のおもてを 堪へて見にけり

山川のたぎちに 向きてなぐさまぬ 心痛みつつ 人を思へり

岩の間のたたへの 水の かぐろさよ。わが大人は 今は 死にたまふらし

風ふけば、みぎはにうごく 花の色の くれなゐともし。ゆふべいたりて

月よみの光りおし照る 山川の水 磧のうへに、満ちあふれ行く

夕ふかく 瀬音しづまる山峡の 水に、ときたま おつる木の葉あり

先生、既に危篤

この日ごろ 心よわりて、思ふらし。読む書のうへに、涕おちたり

わが性の 人に羞ぢつつもの言ふを、この目を見よ と さとしたまへり

学問のいたり浅きは 責めたまはず わがかたくなを にくみましけり

憎めども、はた あはれよ と のらしけむ わが大人の命 末になりたり

先生の死

死に顔の あまり 空しくなりいますに、涙かわきて ひたぶるにあり

ますらをの命を見よ と 物くはず、面わ かはりて、死にたまひたり