和歌と俳句

釈迢空

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ことしもまた 住みかはることなかりけり。庭の落ち葉の 元日の霜

家ごとは 見る人もなし。うづたかき賀状を掃くも。夜はの畳に

大歳の村をぞ思ふ。山々の冬木の立ちのあはれ ひそけさ

日の光り 睦月八日のあたたかさ。こぞのもみぢの まだ交る山

すこやかに 養ふ蚕の眠り 足らへども、易ふべき銭を 思ふ さびしさ

椎の茸の 春茸のあがり よきのみを たのみとぜせむ。年のすべなさ

春山の芽ぶきととのふ 谷の村。昼鳴く鳥の声の ものうき

春既く 弥生の山となり行けど、黒木かこめる村の ひそけさ

日のゆふべ つつ音聞きし宵遅く、春山どりの つくり身を喰ぶ

死にやすき 若き日すぎて、うらさびし。やすく 死に行く人のうへを聴く

葛飾の郡 二わかつ遠蘆はら。蘆むら臥してゐるところ 見ゆ

死ぬる時 言ふこともなく むかひけむ。おのもおのもに、心足りつつ

かの処女 もはら 死なむと言ひにしが、死ぬとし聴けば いとどさびしき

ほのぼのと 山かすむ日に なりにけり。遠山ひこの、音なきに こたふ

なつかしき山の 村居にわかれ来て、なほ 聞え居り。昼おそき 鶏

酔ひおそき村の酒かな。ほのぼのと 睦月の山の霞みつつ 見ゆ

楪も 羊歯もうもるる雪の山。越え来しことを 告げやらむとす

ひたすらに 都大路をあるくなり。賑はう春の人を 見つつも

春今朝も おもしろげもなくもの言ひて、浅草寺を 行きとほるなり

うつうつと 曇りて低き松山に、すべなきかもよ。赤松の幹