和歌と俳句

釈迢空

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川上の 槐の花のきたなげに、咲き乱れたるま昼間を 見つ

照り白む若葉の山の 昼ふけて、木々をしづむる 松蝉の声

山の葉のそよぎの音と 松蝉と 聴きわきがたし。山に満ちつつ

寺山の道おのづから 峠なり。風ふきこぼす 常盤木の花

常盤木の 梢かさなれる山の端に、埃の如く 花ふりやまず

山窪の草藪 ふかく入り来たり 松の花散るかそけさを 見つ

大隅の志布志の町に、このあした 秋づく波の音を 聞き居り

山おろしのよべの響きは こもれども、朝光暑き山を あゆめり

ことごとに もの問ひ行けり。朝早き 伊敷原田の幾群れに逢うふ

みちのくの十三湊。吹く風に立つ波見れば、旅は ものうし

海越えて 島にか行かむ。夜のほどに、波の秀の色 かはりたりけり

ふるさとの なにはをみなのもの言ひの、つばらつばらに のどけかりけり

ひろびろと 畳のうへに煤散りて、涼しき朝を 起きてすわれり

うらうらと 睡り仏の頬杖に対きゐる我も、草がくれなる

阪のうへゆ ひたと来向ふ自動車や━。あはれ 我を轢く音を 立てたり

自動車のまど 目を過ぎぬ。輝きて、菊の花のごとし。をみなごの顔

鳥屋の荷 せきせい鸚哥の高音なり。見る見る籠に満ちて ふくれつ

青葉木の木群 ねり来る絹の傘幾つ あはれと見れば、消えつつ

音羽護国寺の 門とほり、錦襴張れる牀店を見つ

くろぐろと 縁台の下ゆまろび出し 嘴ばかりなる 大き雀

はろばろに 聞きつつ寒し。食堂は、嵐のごとき 人の声ごゑ