和歌と俳句

釈迢空

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時長き 老いはらからのあらがひは、わくる人なく おのづから止む

すべなくて 世にある人と思へども、言和やかに 言ふべくもあらず

鶯の身じろぐ音の あはれなり。命死なざるものの かそけき

肩ひろく坐りゐるなり。たはやすく このよき人を 人のあざむく

ただ二つ 年をへだてて 兄弟は礼なかりけり。逢へばあらがふ

はらからの 一つ衾をかがふりて寝しことをすら言へば、さびしき

雪ふりて 牡丹雪とぞなりゆける 障子をあけて、もだしゐるなり

うつそみの 兄の対ひて言ふことにあらざることを すべなかりけり

曾我廼家のしばゐを見たり。老いづける 兄をしひたぐるを見て おもふなり

年たけてただ二人のみ 残りたるはらからゆゑに、思はざらめや

むらむらと 見えてはためく 顔見世の幟のほどを 過ぎて来にけり

春の日は 影なほ寒し。道のうへに立ちて焼かせぬ。橡の餅を

ひたすらに 踏みみくだきつつ来たりけり。野篶かぶさる 峠の古道

自動車のほこりを かけて行くほどの かかはりもなき人や 憎むまむ

人疎き族娘のねぢけ言 憎みがたしも。あはれに思ひて

我よりも 貧しき人の言ふことの、礼譲正しきに おどろかむとす