和歌と俳句

柿本人麻呂歌集

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海神持在白玉見欲千遍告潜為海子

海神の持てる白玉見まく欲り千たびぞ告りし潜きする海人

潜為海子雖告海神心不得所見不云

潜きする海人は告れども海神の心し得なば見ゆといはなくに

天雲棚引山隠在吾下心木葉知

天雲のたなびく山の隠りたる我が下心木の葉知るらむ

雖見不飽人國山木葉己心名著念

見れど飽かぬ人国山の木の葉をし我が心からなつかしみ思ふ

是山黄葉下花矣我小端見反戀

この山の黄葉の下の花を我れはつはつに見てさらに恋ふるも

従此川船可行雖在渡瀬別守人有

この川ゆ舟は行くべくありといへど渡り瀬ごとに守る人のありて

大海候水門事有従何方君吾率凌

大海をさもらふ港事しあらばいづへゆ君は我を率しのがむ

風吹海荒明日言應久公随

風吹きて海は荒るとも明日と言はば久しくもあるべし君がまにまに

雲隠小嶋神之恐者目間心間哉

雲隠る小島の神は畏けば目こそ隔てれ心隔てや


為妹我玉求於伎邊有白玉依来於伎都白浪

妹がため我れ玉求む沖辺なる白玉寄せ来沖つ白波

白埼者幸在待大船尓真梶繁貫又将顧

白崎は幸くあり待て大船に真楫しじ貫きまたかへり見む

三名部乃浦塩真満鹿嶋在釣為海人乎見變来六

南部の浦潮な満ちそね鹿島にある釣りする海人を見て帰り来む

朝開滂出而我者湯羅前釣為海人乎見反将来

朝開き漕ぎ出て我れは由良の崎釣りする海人を見て帰り来む

湯羅乃前塩乾尓祁良志白神之磯浦箕乎敢而滂動

由良の崎潮干にけらし白神の磯の浦廻をあへて漕ぐなり