中村憲吉

梅雨ぐもり山より見れば西かたの海の明るみ夕べにちかし

雨あとの夜冷えあまねき丘かげに池を照る月はやく傾く

秋めきし夜雲がもとの暗き池かはづの鳴くはすでに稀なり

初夜月のたちまち入りて暗くなる門のひろ池ものの音ぞせぬ

雨あとをとみに秋めく月のかげ門杉垣に露ぞふかけれ

月夜かぜ著くなりたり池ばたの荒くさの蟲の鳴きやみがちに

月に向く尾ばな雨あとの露もてり大きなる影明るく揺るも

小夜ふけて池の矮木に吹きひかる月夜あらしの止むべくもなし

いくばくの池にあらねど春のゆふは靄立ちかなし出て廻りつ

天づたふ星にちかけれ高原にこもりて君がこころ凝りなむ

遠ぐにへ別るる秋を妹背来て花野にこもる人のしづけさ

惜みつつ別るる我ら君がたのむ君がいのちを見に来りたり

國高くはやく冷たし秋に入りて別るる君に会ひに来れり

友に会ふ八ケ嶺ちかしあさ雲がなほひくく居る高はら花野

國たかき信濃の空にしたしみて君に会ふことは我の幸なり

富士見野の野ずゑの川ははやくなれり甲斐に向ひて國傾きつ

空ひくき甲斐を見下ろせばいちじるく野分の雲のたたまりて見ゆ

空ちかく居るここちして高はらの粗き真みづに今朝は顔あらふ

市に出てひと日疲るるあわただしさ今朝剃りし鬚のすでに硬けれ

旅に出て世に働かばしばしばは帰らぬ家とおもひてねむる

明日よりは人にはじめて使はるるさみしさ持ちて父ははに向ふ

和歌と俳句

額田王 鏡王女 志貴皇子 湯原王 弓削皇子 大伯皇女 大津皇子 人麻呂 黒人 金村 旅人 大伴坂上郎女 憶良 赤人 笠郎女 家持 古歌集 古集 万葉集東歌 万葉集防人歌
子規 一葉 左千夫 鉄幹 晶子 龍之介 赤彦 八一 茂吉 白秋 牧水 啄木 利玄 千樫 耕平 迢空