中村憲吉

造林の山を廣けみ日照りつつ天のしぐれの降りすぐる見ゆ

冬がれて草減りゆけば山の牛みづから里へかへるころなり

鞆の海のふるき島かも巖にのこる遠世の潮のあとは寂びたる

年はじめ病臥りつづけぬいち日は雑煮祝を起きてしつれど

日のくれを窓にさやりて降る雪の積みつつかあらむ裏の株田に

けたたましき裏の川田の鴨のこゑ月照りながら雪ふるらむか

春ふえし水のひかりをかなしみぬ川やなぎうごく水際に下りて

草青む春田とほれば頬白の出てゐるこゑの何処かこもりぬ

おく山は芽吹きのおそき樹ごもりに淡くれなゐの桂木のはな

春にして芽吹かむとする枯山は木原のうへぞ霞みわたれる

枯れ山に花先んじて黄に咲ける黒もじのえだ折ればにほひぬ

谷のへの稚うぐひすのしばらくは人とわかれし山路にきこゆ

いくばくは芽ぐむ樹ありて湿り地に山の蛙のいちはやく鳴く

いぢけたる植林の杉は花結びその低木原うぐひす啼きつ

雨足りて田植太鼓のそこ此処にするころ青葉峡に張り満つ

卯のはなの季節にいれば手助けて田を植えいそぐ峡びとのとも

けふ背戸は居ながら見えて早少女うた太鼓にぎはひ田植はじまる

飾られて田に入る牛のいり組みてきほひ相追ひ代掻きめぐる

しろ牛の田を掻きならす直ぐうしろ燕あつまりて餌をひろひ舞ふ

あたらしき代掻きあとの泥濁田は山あをく映りかげしづかなる

田をあがる代掻人より先づいこひ申刻茶飯を食ひはじめたり

夕づくや田植仕舞の代掻きも唄も太鼓もとみにせはしき

ゆふ山に田植たい鼓のなほひびけ代掻きうしは川へ下りゆく

渓川をすべて蔽へる青葉かぜ河鹿こゑ澄むくだり瀬ごとに

うしろ瀬の河鹿きこゆれ雌の橋の下くらがりに水ふむわれに

和歌と俳句

額田王 鏡王女 志貴皇子 湯原王 弓削皇子 大伯皇女 大津皇子 人麻呂 黒人 金村 旅人 大伴坂上郎女 憶良 赤人 笠郎女 家持 古歌集 古集 万葉集東歌 万葉集防人歌
子規 一葉 左千夫 鉄幹 晶子 龍之介 赤彦 八一 茂吉 白秋 牧水 啄木 利玄 千樫 耕平 迢空