和歌と俳句

藤原俊成

冬の池葦の枯葉の乱れこそにほの浮巣のたよりなりけれ

川千鳥なれもやものは憂はしき糺のもりを行き帰り鳴く

貴船川いはこす波のこほりゐて冬ぞしづかに月はすみける

水鳥の池になれたるけしきにぞあはれを知れる宿は見えける

昔たれ宇治の網代をうちそめて今も心を人のよすらむ

ちはやふる賀茂の社の神あそび榊の風もことにかぐはし

おぼつかなとかへる鷹もいかならむ狩場の小野の夕暮れのそら

炭竃のおのが煙の雲さえて雪ふればまたまよふ山人

ありとだに人は忘るる灰のしたに何かおもひの猶のこるらむ

思ひきや暮れ行く年を惜しみつつ八十路も近くならむものとは

みしめひきうつきのいみをさすひより心にかかる葵草かな

いかにせむ岩田の小野のしのすすき穂にもいでずや秋もくれなむ

契りあらばよよのあはれもいふべきを逢はずばなにか恨みしもせむ

錦木のちづかのかずに今日みちてけふのほそぬのむねやあふべき

くれにもと契りおけどもそま川や筏の床は起きぞわびぬる

うつつには逢はぬけしきにつれなくて見しばは夢にいひなさむとや

露ふかき野原の草の枕こそ恋の涙もしのばざりけれ

恋しきも思ふゆゑこそ恋しけれ恋と思ひと何かことなる

あぢきなやつれなき人をいたづらにおもふおもひの惜しくもあるかな

心あらむ人をぞ人はうらむべきうらみけるこそはかなかりけり