あはれとは我をもおもへ秋の月いくめぐりかはながめ来ぬらむ
いかでかく濁りのすゑに生れ来て月すむ秋をあまた見つらむ
月を思ふ深き心を照らしきて終はらむ空も我まどはすな
もみぢ葉に昔をとへば立田川をりしも空もかきしぐれけり
ゆく秋も檜隈川に影みえてやよしばしともいはましものを
もみぢ散る時雨ふりそふ今朝よりは濡るる袂も色かはりけり
空冴ゆる雲のけしきを見るままに烟をそふる小野の炭やき
霰ふる深山の里の苔のいほ久しとやいはむ久しからぬを
越路をぞ冬のかたとは思ひしを吉野の奥も雪のしらやま
ひとり見る池のこほりに澄む月のやがて袖にもうつりぬるかな
ひととせは一夜ばかりの心地して八十路あまりを夢にみるかな
弥帆がゆく濱の真砂は數ふとも君が千歳は尽きじとぞおもふ
君が代は高野の山の岩のむろ明けむあしたの法にあふまで
恋ひしさも悲しきなかに悲しきはあはれをかけし白川の波
藤浪もしづえは悲し住吉の松の風だに我をとへかし
色かへぬ竹の園こそ嬉しけれ大和ことのは猶ときはなり
音たえぬ松の嵐もあるものを訪へかし人の秋のけしきを
さもこそは庭は木の葉に埋もれめ苔おひにけり松のしたみち
たちかへりまたも来て見む松嶋や雄島の苫屋なみにあらすな
夏刈りの蘆のかりやもあはれなり玉江の月の明け方の空
誰かしる月は袂にきよみがた波にかたしく床のけしきを
春山やたちのはまぢを過ぎてこそ空と海との果ては見えけれ
いにしへの嶋のほかまで見ゆるかな明石の浦のあけぼのの空