五つとせむつまじかりし友のわかれ城のひがしに春の雪踏む
見かはしてふたり伏目の人わかし梅にゆづれる車と車
その花よ清きにもろきすくせありてふと夕ぐれの小雨にちりぬ
宮島の神のとびらに歌も染めず筑紫へゆくを人のなげきし
遠き人をふたりしのぴしおばしまのその春の山また夢に入る
春をわれしら梅の花に恨ありなどか風情の君に及ばぬ
花は黄に草はみどりにふと見れば我はましろきつばさのなかに
旭川にしら魚のぼる春のくれ酔ひたる人を車に戴せぬ
笛吹くに吹くにいつしか百合多きこの国さては海いくつ越えし
わがおもひ鸚鵡に秘めてうぐひすにそぞろささやく連翹の雨
君が痩のわれにまされる春の朝とりて別るる手と手の寒さ
まどかなる光明負ひますまぼろしや牡丹ゆすれて闇白うなりぬ
うつくしき手毬に羽子の板そへて春のもてくるものと思ひし
いづこにてまたもとるべきこの御手ぞ柳ちるなり加茂川の秋
二十九のこの朝なにをさとりたるわが門松のさてもさぴしき
年立つ日そは誰なりし吉備の塾に項羽本紀を声たかく読みし
年立つ日城のひがしに鶴を見る竹の冠の人玉のごとき
野のゆふぺすみれひそかにささやきぬおなじねざしの友にとがあり
おくつきにふさはむ色のましろきにさけよと思ふ花すみれ草
いだかれて見たる御国の名は秘めむ星紅かりき百合白かりき
かならずと恋をちぎるは興あさし花のの紅きに蝶はよりきぬ
わか水にかきぞめの筆なにありやかたあげ春はとらむ君なり
てまり繍ふ火かげに歌の筆おきてうたたねすがた兄うつくしき
いとし児に乳は足らへりや春寒のながき年なりきぬまゐらする
子らつれて岡崎去ると日記にありわれよその春七つの童