わが歌を悪しと云ふ人世にあるにあしたうれしき夕さぴしき
髪さげしむかしの君よ十とせへて相見るゑにし浅しと思ふな
あめつちに一人の才とおもひしは浅かりけるよ君に逢はぬ時
鶴折るになれし人やとわらはれて春のゆふべを殿ぬけ出でし
そぞろにも紅梅ちりて日はながし小屋なる牛の鼻なでて見る
まづ起きて親のうがひの水くみぬ梅さく山の霞しろき朝
尼君の山のころものねずみ色にさてもたふとししら梅の花
こざかしやちさき一人に教へられぬ伊勢ものがたり汝が身罪あり
かへりみて国とは云はじ雪のあさ八とせ忘れし藁靴はく
母の手にすねし昨日の癖とおぼせ着じな着かへじ花見のころも
汝がこのむ梅の花うゑ汝がこのむ春の水まくうぐひすの塚
わがなさけ歌には浅くなりぬべし桃のつぼみを封じてやらむ
春寒の身にしむ夜やと裏の木戸そとあけませる叔母君のなさけ
琴のあたりしら菊ひと枝いけて見ればわびしくもあらずわが四畳半
わが好きは妹が丸髷くぢら汁不動の呪文しら梅の花
山ふかき春の真昼のさぴしさにたぐりても見るしら藤の花
誰やらに似ると思ひしそれのみに売らでやみたる古ひいなかな
江に沿うて一里がほどの柳はら柳かざして牛にのるかな
藻の花をわけてむすべば巌間より昼の月しろく浮きて流るる
ついばみて孔雀は殿にのぼりけり紅き牡丹の尺ばかりなる
をとめごのいかにしてまし賜りて立てば地にひくしら藤の花
永き日を蓮の根かみて蓮の糸のつきぬがごとも物思ふかな
稚児髷ゆひて舞のかざしをあらそひぬしら藤の花やまぶきの花