和歌と俳句

大伴家持

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磯城島の大和の国に明らけき名に負ふ伴の男心つとめよ

剣大刀いよよ磨ぐべしいにしへゆさやけく負ひて来にしその名ぞ

うつせみは数なき身なり山川のさやけき見つつ道を尋ねな

渡る日の影に競ひて尋ねてな清きその道またもあはむため

水泡なす仮れる身ぞとは知れれどもなほし願ひつ千年の命を

消残りの雪にあへ照るあしひきの山橘をつとに摘み来な

群鳥の朝立ち去にし君が上はさやかに聞きつ思ひしごとく

あしひきの八つ峰の椿つらつらに見とも飽かめや植ゑてける君

移り行く時見るごとく心痛く昔の人し思ほゆるかも

咲く花はうつろふ時ありあしひきの山菅の根し長くはありけり

時の花はいやめづらしもかくしこそ見し明らめめ秋立つごとに

月数めばいまだ冬なりしかすがに霞たなびく春立ちぬとか

初春の初子の今日玉箒手に取るからに揺らく玉の緒

水鳥の鴨の羽色の青馬を今日見る人は限りなしといふ

うち靡く春ともしるくうぐひすは植木の木間を鳴きわたらなむ

はしきよし今日の主人は磯松の常にいまさね今も見るごと

八千種の花はうつろふときはなる松のさ枝を我れは結ばな

君が家の池の白波磯に寄せしばしば見とも飽かむ君かも

高円の野の上の宮は荒れにけり立たしし君の御代遠そけば

延ふ葛の絶えず偲はむ大君の見しし野辺には標結ふべしも

池水に影さへ見えて咲きにほふ馬酔木の花を袖に扱入れな

青海原風波靡き行くさ来さつつむことなく舟は早けむ

秋風の末吹き靡く萩の花ともにかざさず相か別れむ

新しき年の初めの初春の今日降る雪のいやけし吉事