和歌と俳句

藤原顕輔

いかばかり 隈なく照らす 月なれば 心の闇も 晴るるなるらむ

山彦の こたふる山に なく鹿は おのが声をや 友ときくらむ

あづまやの 軒の茅間の しのぶ草 恋をば人の しのぶものかは

野辺にいでて 露けき花を 見るよりも 秋はさかたの 数をかぞへよ

かぞふべき やまたのつほの うちに入れば 萩のなさけに しくものぞなき

名に高き こよひの月を 見る程や 心の内の 晴間なるらむ

くれなゐに 滝の白糸 染めてけり 峰の紅葉や 間なく散るらむ

いくらとか 言ふべかるらむ よろづ代も 君がためには 数ならぬかな

よしあしも 清き鏡ぞ 照らすなる 心の程は これにてを見よ

はしたかの 野守の鏡 ならねども よそなる人の 心をぞ見る

憂き身には みやこの手振り 飽きはてぬ 鄙へさそはぬ あづまつもがな

白雲の たなびく峰の さくら花 かをらざりせば いかで知らまし

うぐひすの 花のねぐらに とまらずば 夜深き声を いかできかまし

炭竃の 煙にむせぶ をの山は 峰の霞も おもなれにけり

山の端に 関守すゑよ 立田姫 惜しむも知らぬ 月やとまると

苔のむす いはかけまゆみ 色ふかし これをあらしに 知らせずもがな

なさけなき 言の葉さへも なつかしき 恋ひしきなかに かよふと思へば

たがためと 急ぐなるらむ 夜もすがら まきのしま人 衣うつなり

かそいろと たのむもしるし 夜半の雨に 小萩が原の 丈ぞまされる

炭竃の 煙ばかりは 立たずとも 山里いかに 寂しかるらむ