やどごとに 植ゑける花の かひありて 咲き乱れたる 常夏の里
むかしより 名に流れたる いはたきの 水の白糸 いくよ経ぬらむ
いろいろの 千草の原を 見渡せば いくらばかりの 錦なるらむ
曇りなく すむたまのゐに いとどしく 光をそふる 夜半の月かな
詞花集・雑
板倉の 山田につめる 稲をみて をさまれる代の ほどをしるかな
みつぎもの 運ぶよほろし おほかれば みちもさりあへず 逢坂の関
日にそへて あかくぞ見ゆる 鏡山 紅葉の色や 深くなるらむ
みかりする たかのを山に たつきじや 君が千歳の 日つぎなるらむ
すめらきを まもりますだの 森なれや あから柏の あからめもせず
朝まだき ふりさけ見れば しろたへの 雪つもれるや たかみやの里
いかでわれ 心のつきを あらはして 闇にまどへる 人を照らさむ
住の江に やどれる月の むら雲は 松のしづえの かげにぞありける
いくへとか まがきの菊を おもはまし 今宵の月の なべてなりせば
新古今集・神祇
年経とも 越の白山 忘れずは かしらの雪を あはれとも見よ
住吉の 松のたえまの 紅葉にや 津守のあまは 秋を知るらむ
小夜更けて 筧の水の とまりしに 心はえてき 今朝の初雪
夏ひきの 糸の乱れも 隠れなく こやのしのやを 照らす月影
ますらをが あさふむ野良を 見渡せば くもゐはるかに かかるせこなは
暮れの秋 月のすがたは 絶えねども 光はそらに 満ちにけるかな
ひとまねの 恋にぞ老いは 忘れぬる むかしの心 いまだありけり