和歌と俳句

藤原顕輔

憂き身には 世の経ることも たのまれず いづれがいづれ おぼつかな ことわりなれや まきもくの 檜原の山の そま人の うきふししげみ まかりきと いとひ捨てたる 身なれども  心にもあらず たちまじり かなしきままに 雁がねの ひまなくなけど あはれてふ 言の葉をだに きかせねば なくもゆかむも かはらぬを ただ身の咎に なしはてて この世のことを  思ひすて 後の世をだにと 思ひつつ 憂き世の中を 立ち出づれど 子をおもふみちに 迷ひつつ 行くべき方も おぼえねば 天のかはなみ たちかへり 空を仰ぎて ありあけの 常なき名をも 流しつるかな

身を知らで いふはかひなき ことなれど 頼めば人をと 思ふばかりそ

川の瀬に 生ふる玉藻の 行く水に なびきてもする 夏払へかな

ほととぎす 夏くははれる 年とても 身のくせなれや とこめづらなる

からにしき しく常夏の 花なれば やとのかざりと 誰か見ざらむ

今はさは 逢ひ見むまでは かたらはむ 命とならむ 言の葉もがな

まだきより 秋はたつたの 川風の 涼しき暮れに おもひしらるれ

思ひやれめぐりあふべき春だにも立ちわかるゝは悲しかりけり

金葉集・秋
心ゆゑ心おくらむ女郎花いろめく野邊に人かよふとて

詞花集・雑
いかで我 こころの月を あらはして 闇にまどへる 人を照らさむ

千載集・夏
さみだれに浅沢沼の花かつみかつ見るままに隠れゆくかな

新古今集
秋の田に庵さす賎の苫をあらみ月とともにやもり明かすらむ

新勅撰集・秋
わぎもこが すそのににほふ ふぢばかま つゆはむすべど ほころびにけり

新勅撰集・羇旅
たちわかれ はるかにいきの まつほどは ちとせをすぐす 心地せむかも