和歌と俳句

若山牧水

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五日がほど 読書に過ぎぬ、つかれたる 暗き頭に 親しきこの冬

静かなれ冬の日、わきてけふ一日、朝よりこころ 死せるがごときに

机のうへの 二りんの薔薇にも 愛憎の湧く日なり、眼昏し

青杉の 大枝をさせば 北窓の 机小暗し われの読書に

山河みな 古き陶器の ごとくなる このふるさとの 冬を愛せむ

曇りなき 十一月三日の 空の日の かなしいかなや 静かに照れる

かしこしや この一もとの 菊にさへ 大御心の のこれるごとき

野に生ふる草 山にそびゆる樹のごとき このこころもて 悲しみまつる

ふと触るれば しとどに揺れて 陰影をつくる くれなゐの薔薇よ 冬の夜の薔薇よ

虚しき命に映りつつ真黒き玉のごとく 冬薔薇の花の輝きてあり

ひいやりと 腰のあたりが なにものにか 触れしがごとく くづるる冥想

思ひつめては みな石のごとく黙み、黒き石のごとく並ぶ、家族の争論

ゆふぐれの わが家の厨の 喧噪は 古沼のごとし、西に高き窓

窓よ暗かれ、わが悲しき孤独の日に、机のばらの さむきくれなゐ

黒鉄の ごとき机に 身を凭せて 薔薇にひややかに 眺め入りたる

やや深き ためいきつけば、机のうへ、真青の薔薇の葉が動く、冬の夜

薔薇は薔薇の 悲しみのために 花となり 青き枝葉の かげに傲れる