住み侘びば 野辺の通ひ路 告げやらむ ともを離れて まつむしのこゑ
今はとて みやこにともを まつむしの なくねぞかれし 君が通ひ路
降りそむる けさだに人の 待たれつる みやまの里の 雪の夕暮
旅の空 雲ふむ峰を わけ行けば 時雨は袖の 下よりぞする
まどちかき 椎の下柴 おとづれて みやまの里に 霰ふるなり
思ひあれば 袖に螢を つつみても いはばやものを とふ人もなし
おほかたの 秋くる宵や これならむ 色なき露も 袖におきけり
いつもかは ふるきみなとを たづぬれば 遥かにつたふ 和歌の浦波
やはらぐる 光の庭に ゐるちりの 末をも山と 神ぞ守らむ
いさぎよき 心もしるし 入る月の なき影をさへ 君にまかせて
なき影を 見よとて月の 入りしより いとど心の 闇にまよひぬ
わしの山 ふたたび影の うつりきて 嵯峨野の露に ありあけの月
にほひこし もとのみやこの 法の花 散り敷くすゑは 墨染の袖
あづまやの まやの板間に やどりきて かりにもすめる 夜半の月かな
志賀の浦や つりするあまの 袖さえて かへる波路に こほりしにけり
雲の上に 春暮れぬとは なけれども なれにし花の かげぞ立ち憂き
いかばかり くもゐの花も 思ふらむ なれしみゆきの あかぬ匂ひを
世の中を 出でぬとなどか 告げざりし 遅れじと思ふ 心あるものを
人をさへ みちびく程の 身なりせば よをいでぬとは 告げもしてまし
知るらめや 須磨の浦風 身にしめし 人もなぎさに なく千鳥をば