中村憲吉

夕づく日眼に傷みあれ樹によれば公孫樹落葉の金降りやまず

燃えあがる公孫樹落葉の金色におそれて足を踏み入れずけり

このゆふべ背戸の刈り田の霧ぬちに聞きながら雨戸を繰るも

霧ながら月の照りたる刈り田にはいづらやほそく鴨の啼くらむ

よく見ればすぐの刈り田の月影のゆらげる水に歩み居る鴨

立ち聞きて暫く待ちて戸を閉ぢぬ乏しくはあれど のなく聲

ゆふづく日背戸の木かげの塵塚にがらすの破片の光りやまずも

いにしへのこれの狩場の枯尾花きたり遊びてひと日暮せり

もののふの古きかり場のかれ尾花今は長くて胸をし埋む

胸をうづむ尾花が末は山すそへ光りなびきて暮れつづきけり

ゆふぐれて山をくだれば蟲のこゑ道もせにして頻りに鳴くも

橘花のかをりの深きおぼろ夜はひとりなやみて物をこそ思へ

そとに出て月に立てれば夏の雲明るき空をちかく飛べるも

白雲の山端をいづる月の夜のあかるみにこそ鴉啼きたれ

さやさやし庭樫が枝の朝の風ここが露けく椿散りゐる

みち道の椿の花を摘みなづみ蜜を吸ひつつわが行く山路

春の日は門に枝垂りし孟宗竹のしづ搖れつつも永く暮れずも

梅の花うす黄がふふむ淡雪は手につむからに匂ひて消つつ

浴室の窓よりみれば湯気かかる紅梅のはなに散らす雪かも

山くぼの畑のなかに茅家をかくむ白梅日は暮れむとす

茶垣より二本立ちし枇杷の枝は厠の軒に片枝咲きけり

向山の青葉しげ山みて居ればかすかに木の葉動きて居るも

柑橘のあかるく熟れし奥庭は雨ながらひる戸を鎖したり

庭の樹に雨繁吹きつつボンタンが折をり光るその葉の中に

にはたずみ流るる庭をボンタンは擦りがてに搖る風にもまれて

和歌と俳句

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