中村憲吉

あらたまる年とは思へど片づかぬ物わづらひの今年も続がむ

歳徳神へ今朝のまゐりの雪みちの清し小川をゆめに見て寝む

竹むらより老梅林に吹きこゆる風はさむけれ花の遅るる

梅の園いまだ咲かねば枝がちて木の間はさむし枯芝のいろ

春さむき梅の疎林をゆく鶴のたかくあゆみて枝をくぐらず

梅林の外にでて鶴は羽ばたけり芝生につくる影のおほきさ

朝がすみ舟こぎ出れば河ぐちは海たひらにてとほきしら雲

くが山の段々畑の除虫菊しろく咲きそめて春ふけにけり

磯やまに眞ぢかく漕ぎぬうぐひすは畑のうへの山にして啼く

磯山に映ゆる若葉を海にみて過ぎしむかしの命をぞおもふ

網船にひきあぐる網濡れわたり眞あたらしき潮の香ぞする

船あひに曳き狭め来し網のなか魚あふるらむ水盛りあがる

漁あみに祝樽酒なげ入れて樽のしたびに魚はしるみゆ

つぎつぎに船に手ばやく鉤きあぐる魚みどりにてみな鰆なり

鯛ぶねのこの曳く網に鯛ともし五月のすゑの鰆季節かも

大群にさまよふ鯛や行く春と播磨の灘へいり終へなむか

祝ぎ酒の返しの魚をもらひたり海のうへなる風習したしき

船板のうへに緑色の鮮けき貰ひしままの鰆を裂かす

潮風のいく日を海に起臥して酢に餓し網子に夏蜜柑やる

和歌と俳句

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