中村憲吉

六兒山のふゆの小村に水車おほし大灘びとの懸けてつきける

酒つくる灘にせはしき牛ぐるま山の水車へ米曳きかよふ

六甲山の小だかき村はふゆの日ぬくし搗きて聞ゆる水ぐるまの音

この山のなぞへの村はみんなみに海見おろして梅はやき村

やすみなき音のかなしさ暗がりにいく百の杵もたげて搗きつ

春の海に淡路島かげ大きなり山には垂りてにごる綿雲

潮さゐの磯畑の空に啼きて澄む雲雀のこゑの愛しきろかも

阿波の海に潮立ちそめぬ打ちいでて淡路島を見れば磯もしら波

紀の海へ潮の落ちゆく刻ならし大毛の島の磯あらふ波

磯に出て鳴門を見ればうごきくる青海ばらや白波のとぶ

波立ちて鳴門をいづる春しほのひろがりとほき海となりぬる

絶えずして鳴門の波の打ちあらふ大毛の海は松の砂濱

淡路島向うに大きしその磯の潮のとよみも聞けばきこゆる

春の日の鳴門の濱に旅ごころ凡におぼゆれ濱のうへの風

旅びとの我のみかはや磯づたひ里人も鳴門へ春の潮見に

春まひる濱には居ると思ひ来しに鳴門がらすの何処にも鳴かず

すでにして潮のひきゆく阿波の門に潮のあらそふ音ぞたかみぬ

峡まれる鳴門に立てば海ばらは内外にわかれ二つのひろ庭

海にして岩瀬あらはれ川となる迫門がうれしも淡路をまへに

潮ひきて海ひくみかも淡路島磯ひと筋に濡れしあと見ゆ

春の日の夕づくおそき飛島のめぐりの島は大きくなりつ

夕づく日淡路の島の磯なみの音のきこえずなるが寂しき

あらはれし鳴門の岩に染みて照る春のゆふひを去りつつをしむ

阿波の門にわたりてくれば四國なる山へ落ちゆく春日の大きさ

日のくれの船もてとほり寂しけれ海なかの岩に潮あげて居り

和歌と俳句

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