旅人の 仮の篠屋に 年暮れて 今日ふたとせに なりにけるかな
谷深み さこそは雪の 消えざらめ いかに冴ゆるぞ 春の山里
思へども 昔の秋の かなしさは 尽きせざりける 春の日暮らし
あまのとを ほのかにあけて 昆陽の野の 霞とともに たちぞ安らふ
うち乱れ すめるみ空の あそぶいとに 天の川瀬の 水をひかばや
春たてば あづさのまゆみ ひきつれて みかきの内に まとゐをぞする
春ごとに けふ祈られて 春日山 松のさかえも いやまさりなり
やま水の 流れに浮かぶ 松が枝に かざしのふちを かけてこそみれ
まだ知らぬ 人とともにぞ 越えにける 志賀の山路の 跡もなけれど
稲荷山 しるしの杉を たづね来て あまねく人の かざす今日かな
白雲と 見ゆばかり咲け 山桜 さらば入日に まがひしもせじ
くれなゐの 衣の袖に 梅の花 あかぬ色とや おり重ぬらむ
垣越しに 枝さしかはす 桃の花 たれも千歳を 重ねてや見む
谷川に 流れて花の うづまくは いはねが滝の 波かとぞみる
しつのをが かりてはやせる 丘躑躅 若枝に花の 咲きにけるかな
あはれしや 焼野にもれし 峰のわの むら草隠れ きぎす鳴くなり
霞しく 春くれたけの 風の音に 声うちそへて うぐひすぞ鳴く
高瀬舟 のぼる堀江の 水をあさみ 草隠れにて かはづ鳴くなり