谷深み そしろのさゐに 庵して 稀にぞたてる ひつぢ田の稲
みねにおへば むら鳥落ち来 草のかう 浅き裾野ぞ 友やたはさめ
みやま木の 色変えぬ枝も 見えぬまで かかれる蔦は 紅葉しにけり
山里の 嵐にまよふ ははそ原 袂にかけて 見るぞうれしき
みやこ人 来ても見よかし しぐれつつ うつろふ山の 秋のけしきを
頼めつつ 来ぬ辛さにぞ 夜もすがら いまやいまやと まつむしのこゑ
鈴虫の こゑを鈴かと きくからに 草とるたかぞ おもひでらるる
露すがる 小笹が下の きりぎりす 乱れてかかる ねをや鳴くらむ
夕されば 雪ふる里の 柴の家は 雫にてこそ 霙とは知れ
さらぬだに 人も訪ひ来ぬ 山里に あやにくなれや 今朝の初雪
御狩野の 草の尾花の なびくまで 羽風はげしき 真白斑の鷹
やどに敷く 錦を見れば うれしくて さすがに木の葉 散らば惜しまる
をとめ子が 雲の上にて 袖ふれば ひかげにまがふ 天の羽衣
降る雪も をやめやをやめ 小野山に 椎柴刈るは しばしばかりぞ
真柴刈る 狩場の小野に 雪ふりて 爪木になづむ 遠の里人
冬寒み 霜冴ゆる夜は 明けぬれど あさのふすまぞ ぬがれざりける
鴛鴦の つたふ岩根に 波かけて 浮きぬ沈みぬ 身をぞうらむる
あさつまや はたさす駒に 声たてて 瀬田の長橋 ひきわたすなり
言の葉に 三世の仏の 名をかけて つくれるつみは つゆもとどめじ
年過ぐる 山辺な籠めそ 朝霞 さこそは春と ともに立つとも