和歌と俳句

源顕仲

もの思ふと いはぬばかりは しのぶれど いかがはすべき 袖ののしづくを

待ちわびて こよひばかりの まろふしに いくたびわれは ねざめしつらむ

逢はぬ夜の 数やはつもる いかなれば たちぬる月と いふは苦しき

まてといはむ ことこそ今は 頼まれね さてのみこそも 過ぎし身なれば

恋ひ死なで 生の松原 いきたりと 告げだにやらぬ 道のはるけさ

おぼつかな 木曽路の橋は 年ふれど かけてぞわれは ふみみざりける

見てもなほ 飽かぬ心の 尽きせねば 恋ひしきことぞ 変はらざりける

うちふさで おもひあかさむ なかなかに 寝覚むるたびに 苦しかりけり

いつはりの 契りばかりに まつら山 待つらむとだに 君は知らじな

明け方の 袖のけしきの 露けさに みちのしづくは 思ひやらなむ

高円の 山に八重たつ 白雲は 空にたなびく ここちこそすれ

雪とのみ かしらはなりて いただきし 星をよそめに 見るぞ悲しき

夜とともに したに焚く火は なけれども しまねの御湯は 冴ゆる夜もなし

波立てて かるとばかりは きこゆれど かへるも見えず 沖の白石

あふみがた 磯の浜山 をる波に 舟出やすらむ 御津の浦人

谷おろしの 風しやまねば よとともに おきつが原に くぬぎなみたつ

水上に いかなる繭を 繰りければ 絶えせざるらむ 滝の白糸

みぎはには たちもよられぬ やまがつの 影はづかしき 清水の池

八重葎 隔てつつふる ふるさとに いづくぞとだに とふ人もなし

谷深み 跡だに見えぬ 山寺は 筧の水の ゆくにぞそ知る