木下利玄

秋の西日田圃に照れり郊外電車足穂の上に影を走らす

泉水に公孫樹の黄葉うつりをりひろらのお庭の夕静をめぐる

落葉掃く箒の音は何邊かも築山紅葉の夕冷えの光澤

築山裏淡紅いろ山茶花咲きてをり静けさまとまるこのひとくまに

西空の雲に日かくれつ寺の池冬木うつりて水凝りすめり

夕闇の妙心寺境内ゆくに大建物くろぐろわれにのしかかりゐる

日没後時経てくらき中空に山門の屋根の反りの猶見えをり

かた太の練馬大根ひたさるる野川の水はよどめりくろく

濡れ白き大根の光澤にさし弱る冬の夕陽の匂ひやかなり

冬空の西夕焼けてくきやかに富士連山を磨ぎ出しにけり

寒あけの雨後おもきくもり空大地の凍てはあまねくとけつ

牡丹花は咲き定まりて静かなり花の占めたる位置のたしかさ

花になり紅澄める鉢の牡丹しんとしてをり時ゆくままに

のびきれる芥子の太茎ただ一つこの眞白花を今日ひらきたり

ゆきめぐる楢若葉山下草に洩れ日ちらちら揺れさだまらぬ

今年の葉うづたかく散りこの森のどの木の幹にも冬日ぞあたる

庭の面のむらさきつつじ晩春の夕冷え時を艶やかに冴ゆ

草にゐてわりごひらけば真上より野天の春日握飯を照らす

若葉樹の繁り張る枝のやはらかに風ふくみもち揺れの豊けさ

向山の雑木の若葉風とほり揺れいちじるく夏さりにけり

昼の雨はれんとすなり雲にふくむ真昼の光若葉の明るさ

陶壺に黄菊白菊挿したれば花々寄りそひ黄のそばに白

十一月の日かげさむけき午后の風さやさやあひつぐ笹の葉の鳴り

日没みて藍くすみたる夕べ空底なき寒さをたたへたるかも

道ばたの枯かや草におくの旭をはじき光るきらきら

和歌と俳句