和歌と俳句

万葉集防人歌

天平勝宝七歳二月二十三日 上野国防人部領使大目正六位下上毛野君駿河

難波道を行きて来までと我妹子が付けし紐が緒絶えにけるかも 助丁上毛野牛甘

我が妹子が偲ひにせよと付けし紐糸になるとも我は解かじとよ 朝倉益人

我が家ろに行かも人もが草枕旅は苦しと告げ遣らまくも 大伴部節麻呂

ひな曇り碓氷の坂を越えしだに妹が恋しく忘らえぬかも 他田部子磐前

天平勝宝七歳二月二十九日 武蔵国部領防人使掾正六位上安曇宿禰三国

枕大刀腰に取り佩きま愛しき背ろが罷き来む月の知らなく 上丁那珂郡檜前舎人石前妻大伴部真足女

大君の命畏み愛しけ真子が手離り島伝ひ行く 助丁秩父郡大伴部小歳

白玉を手に取り持して見るのすも家なる妹をまた見てももや 主帳荏原郡物部歳徳

草枕旅行く背なが丸寝せば家なる我は紐解かず寝む 妻椋椅部刀自売

赤駒を山野にはかし捕りかてに多摩の横山徒歩ゆか遣らむ 豊島郡上丁椋椅部荒虫妻宇遅部黒女

我が門の片山椿まこと汝れ我が手触れなな地に落ちもかも 荏原郡上丁物部広足

家ろには葦火焚けども住みよけを筑紫に至りて恋しけ思はも 橘樹郡上丁物部真根

草枕旅の丸寝の紐絶えば我が手と付けろこれの針持し 妻椋椅部弟女

我が行きの息づくしかば足利の峰延ほ雪を見とと偲はね 都筑郡上丁服部於田

我が背なを筑紫へ遣りて愛しみ帯は解かななあやにかも寝も 妻服部呰女

足柄の御坂に立して袖振らば家なる妹はさやに見もかも 埼玉郡上丁藤原部等母麻呂

色深く背なが衣は染めましをみ坂給らばまさやかに見む 物部刀自売