旅人の 往来も絶えて 又六が 門の杉葉に 吹雪散るなり
讃岐なる あらぶる神を 祈りつつ 舟搖る波に 銭投ぐる刹那
五百枝さす 御園の松の 枝毎に 千代こめて君が 代を祝ふかな
今焼くる 高殿の棟に 火を踏みて まとひふるをのこ 見ればゆゝしも
思ふ人は 露と消えにし おくつきの 苔の下にも こひわたるかな
たきものゝ 烟の末に あらはれし 面影こひし 夢ならなくに
いたづらに 結ぶの神を たのみけり むすぶの神は 我を守らず
思ひ川 上れば下る 川舟の あはんとすれど 遠ざかりつつ
もろもろの 薫るてふ國は 草も木も 其香妙也 三昧に入る
煩悩の 心を掩ふ 雲間より 眞如の月は あらはらにけり
山寂莫 寶塔の鈴 音もなし 杉の梢に 冴ゆるあか星
絵巻物 見て盡きんとす 一代記 上人入寂 紫雲来迎す
夜もすがら 念佛の聲の 聞えけり 狼歸る 明方の月
もろもろの 男餓鬼女餓鬼を 臼に入れて 搗かんとや鬼の 杵ふりあぐる
寒山も 豊干も虎も 眠りけり 四つの鼾に 松葉散る山
二荒の 山来てみれば 玉光り 黄金かがやく 杉の下陰
御鈴ふる 音もかすかに 聞えけり 高しる千木の 杉の上に見ゆ
きざはしに ぬかづき居れば かしこしや 神の御姿 あらはれにけり
神の我に 歌をよめとぞ のたまひし 病ひに死なじ 歌に死ぬとも
車して 戸だの川邊を たどりきと 故郷人に 言つげやらむ