和歌と俳句

正岡子規

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大寺の 高き檐端に 巣をかけて 佛をたのむ 雀さかしや

森の木に くふや鳶の巣 烏の巣 烏の子鳴けば 鳶の子も鳴く

裏畑の 梨散り庭の 藤咲きて やがて燕の 巣は成りにけり

國ほろび 人はうせにし あき家に 燕住みて 春雨ぞふる

野社に はやらぬ神を 祭りけり 杉ほの暗く 梅の花咲く

市人は 櫻の上に ながむらん 杉の木末の 春の夜の月

紅梅の 莟に似たる 唇に 乳を求めてや きやきやと泣く

黒川に 芹摘むをとめ 背戸畑に 鍬とる孀 すべてうれしも

里を見て 歸りし夜半の 枕上 菜の花咲く野 目に見ゆるかも

太刀佩きて いくさに行くと 梅の花 見てし年より 病みし我かも

紅梅の 花そめ産衣 うち著せて 神田の神に 千代をこそ祈れ

永き日を さぶらふ人も なかりけり 忍が岡の 松の下蔭

わが塚に うゑよといひし 道のべの 一本柳 その柳かも

忍ばずの池のほとりに うちあぐる 花火散るなり 夜桜の上に

故郷の 梅の青葉の 下陰に 衣浣ふ妹の 面影に立つ

時鳥 鳴くべき頃と なりにけり 青葉にこもる 山の下庵

わが庭の 垣根に生ふる 薔薇の芽の 莟ふくれて 夏は来にけり

日をうけて 覆盆子花咲く 杉垣根 そのかたはらよ 物ほしどころ

風わたる 一むら薄 芽はのびて 菊苗畑に 垂れんとすらん

げんげんの 花猶残る 庭の隅に 枇杷のこ苗の いかつ若葉出す