和歌と俳句

正岡子規

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九重の 雲居をいでて 藤さける しきなが濱に 御舟はてけり

藤さける しきなが濱に 風ふけば 御船によする 紫の浪

夏に入る 旅なれ衣 ぬぎもかへず 磯の藤波 折てたてまつる

松ながら 折りてさゝげし 藤波の 花はむしろを 引きずりにけり

君がみゆき ありともしらで 吉備の國の 荒磯邊だに 藤咲きにけん

よろづ代を いはひて折りし 松が枝に 二房垂るゝ 藤波の花

松が枝を 折りてさゝぐる みやつこの 其手震へか 藤波ゆらぐ

龍がたの 御船にまけし 玉しきの 御座の下に 藤たてまつる

みつかさの 折りてさゝぐる 松が枝に 長きみじかき 藤波の花

藤の花 さゝげもちたる みやつこを のせて漕ぎ来る 棚なし小舟

大君の 御前にしぼむ 紫の 藤波の花 すてまくをしも

もろ人の もろ吐きうつる 歌玉と いちごの玉と かずを争ふ

庭守は 翌な掃きうて 歌玉の 落ちてぞあらん 木陰石陰

枇杷黄玉 覆盆子赤玉 何はあれど 光を放つ 歌の白玉

みやびをの 歌のみことが 吐きうつる いぶきの霧に 白玉散るも

歌玉は 色々あれど 秀眞のは 白く左千夫は 黒くしありけり

格堂は ルビーか巴子は トパッツか あるじ麓は 出雲玉

茂春、節、一五坊、不可得、四つの玉 飛びてあたりて 砕けて散りぬ

のみこみし 團子の玉は 歌玉と なりて出でけり 神わざなるらし

團子の骨 ビールの屍 散り亂れ 歌玉いくさ 日は夕なり

歌玉の 清めるは上り 星となり 濁るは沈み 松露とぞなる

歌玉の 潮音三子 其色は 眞白赤斑と 眞赤白斑と

歌玉は くしき玉かも もろ人の 口ゆ飛び出て 提灯に入る