和歌と俳句

正岡子規

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山形の 名を負ひて立つ 新聞の 三千號を いはひて歌詠む

たる木なす 太筆の穂の 穂力に 最上の水を さか捲き来る

三千日けに 三千文書きし 古筆を 山に築かば 花開くべし

しこ人を のゝしり殺す 新聞の 筆の力は 太刀に勝れり

いや日けに 筆すこやかに 三千の 數に満ちたる 山形新聞

サミダレノ 闇ノ山道 タドリ行ク 松明消エテ 鳴クホトヽギス

ガラス戸ノ 外面ニ夜ノ 森見エテ 清ケキ月ニ 鳴クホトヽギス

ホトヽギス 其一聲ノ 玉ナラバ 耳輪ニヌキテ トハニ聞カマシ

ミヅラナル 湯津爪櫛ノ 一ツ火ノ 消エナントシテ 鳴クホトヽギス

イニシヘノ 人モ聞キケン 名ドコロノ 古ホトヽギス 聲嗄れて鳴く

道ノベノ 稲荷ノ森ニ 雨ヤドリ 彳ミ居レバ 鳴クホトヽギス

橘ノ花 酒ニ浮ケ ウタゲスル 夜クダチ鳴カヌ 山ホトヽギス

葛城ノ ミ谷ニ眠ル ヰノシヽノ 鼾ノ上ニ 鳴クホトヽギス

ミヤビヲノ ツドヘル宵ノ ムラ雨ニ 鳴ケホトヽギス 歌幸ヲ得シ

蓬生の 露わけ車 立てさせて 格子叩けば 鳴くほとゝぎす

五月雨の 雨ふりそゝぐ 紫の 花あやめ田に 鳴くほとゝぎす

火を告ぐる しらせ早鐘 三つ打てど 煙は見えず 火消等惑ふ

鹽を焼く 鹽屋の烟 風をいたみ 我妹が家の 窓になびきぬ

そらだきの 伽羅の煙は 瓶にさす 椿の花を めぐりてなびく

黒石の 炭やく煙 風をいたみ わろき香はなち 我家に入る