和歌と俳句

正岡子規

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一うねの 菜の花の 咲き満つる 小庭の空に 鳶舞ふ春日

くれなゐの 若菜ひろがる 鉢植の 牡丹の蕾 いまだなかりけり

春雨を ふくめる空の 薄曇 山吹の花の 枝も動かず

家主の 植ゑておきたる 我庭の 背低若松 若緑立つ

百草の 萌えいづる庭の かたはらの 松の木陰に 菜の花咲きぬ

高瓶に させる牡丹の こき花の 一ひらちりて 二ひらちりぬ

草枕 旅ゆ歸れば 我庭の 赤薔薇散りて 白薔薇咲きぬ

妹が着る 水色衣の 衣裏の 薄色見えて 夏は来にけり

かな網の とぐらの下を 行く猫に 木を飛びまどひ 諸鳥さわぐ

あで人の 住める御殿の 塀長く 椎の梢に ひるがへる

船見せす わが大君の 大御前に 玉さゝぐらん わたつみの神

山吹は 散り菜の花は 實になりて 五月一日 われ厄に入る

みすず刈る 信濃の奥の 白坂に 雪は降れゝど 蕨萌ゆとふ

病み臥せる 床にさゝんと おぎのりし 菖蒲匂ひ葉 根はなかりけり

「藤の花長うして雨ふらんとす」とつくりし我句 人は取らざりき

鉢植に 二つ咲きたる 牡丹の花 くれなゐ深く 夏立ちにけり

はしきやし 少女に似たる くれなゐの 牡丹の陰に うつうつ眠る

カグツチノ アラブル神ノ アラブルト 玉モ瓦モ 共ニ焼キケリ

敷島の 國つ御民の 祝ふ日を 祝ふやわれも あけのこはいひ

高濱の 濱の眞砂の 名にしおふ みどり子まさ子 我になじまず

散り落ちし 牡丹の花の 花びらに 君を思ふの 歌書き贈る

はりあげし うたひの聲の もろ聲の 上野の山に ひびきて聞ゆ