和歌と俳句

正岡子規

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櫻さく 御國しらすと 百敷の 千代田の宮に 神ながらいます

櫻さく 濱びの宮に 外つ國の 使等召して 大御言たまふ

さす竹の み子のみことの 大御女を めすらん年と 花咲きさかゆ

高砂の 新高山に さく花は やまとの花に 似て似ざりちふ

御城のもとの いやしき民は 櫻さく 上野の園に 出でてし遊ぶ

黄金塗り 丹ぬりぬる 御靈屋の 鳥居うづめて 花さきにけり

御魂屋の 杉の林の 陰にさく 老い朽ち櫻 花の乏しき

櫻さく 上野の岡ゆ 見おろせば 根岸の里に 柳垂れたり

雨にして 上野の山を わがこせば 幌のすき間よ 花の散る見ゆ

岡の上に 天凌き立つ 御佛の 御肩にかかる 花の白雲

人むるゝ 花の林を 行き過ぎて 杉の木の間に 鳥の音聞ゆ

咲く花の 薄色雲は 吾妻橋ゆ 梅若丸の 塚になびけり

櫻さく 隅田の堤 人をしげみ 白鬚までは 行かで歸りぬ

玉川の 流を引ける 小金井の 櫻の花は 葉ながら咲けり

雨そゝぐ 櫻の陰の にはたづみ よどむ花あり 流るゝ花あり

我宿の 山吹咲きて 向つ家の 一重櫻は 葉となりにけり

東風 俄に吹けば 古杉の 林の前を 花飛びわたる

家へだつ 遠の梢に 咲く花を いふきまどはし 我庭に散る

足柄の 山の櫻を ねもごろに 見まく思へど 汽車とどまらず

年長く 病みしわたれば 花をこひ 上野に行けば 花なかりけり