乎布の崎漕ぎた廻りひねもすに見とも飽くべき浦にあらなくに
明日の日の布勢の浦廻の藤波にけだし来鳴かず散らしてむかも
浜辺よりわが打ち行かば海辺より迎へも来ぬか海人の釣舟
沖辺より満ち来る潮のいや増しに我が思ふ君が御船かもかれ
垂姫の浦を漕ぐ舟楫間にも奈良の我家を忘れて思へや
たこの崎木の暗茂にほととぎす来鳴き響めばはだ恋ひめやも
ほととぎすこよ鳴き渡れ燈火を月夜になそへその影も見む
可敝流廻の道行かむ日は五幡の坂に袖振れ我れをし思はば
常世物この橘のいや照りに我ご大君は今も見るごと
大君は常磐にまさむ橘の殿の橘ひた照りにして
卯の花の咲く月立ちぬほととぎす来鳴き響めよふふみたりとも
居り明かしも今夜は飲まむほととぎす明けむ朝は鳴き渡らむぞ
一本のなでしこ植ゑしその心誰れに見せむと思ひそめけむ
しなざかる越の君らとかくしこそ柳かづらき楽しく遊ばめ
ぬばたまの夜渡る月を幾夜経と数みつつ妹は我れ待つらむぞ
万葉集・巻第三
朝に日に見まく欲りするその玉をいかにせばかも手ゆ離れずあらむ
万葉集・巻第三
なでしこがその花にもが朝な朝な手に取り持ちて恋ひぬ日なけむ
万葉集・巻第三
あしひきの岩根こごしみ菅の根を引かばかたみと標のみぞ結ふ
今さらに妹に逢はめやと思へかもここだ我が胸いぶせくあるらむ
なかなかに黙もあらましを何すとか相見そめけむ遂げざらまくに
けだしくも人の中言聞かせかもここだく待てど君が来まさぬ
なかなかに絶ゆとし言はばかくばかり息の緒にして我れ恋ひめやも
思ふらむ人にあらなくにねもころに心尽して恋ふる我れかも
ももしきの大宮人はさはにあれど心に乗りて思ほゆる妹
うはへなき妹にもあるかもかくばかり人の心を尽さく思へば