かくしてやなほや罷らむ近からぬ道の間をなづみ参ゐ来て
はねかづら今する妹を夢に見て心のうちに恋ひわたるかも
心には思ひわたれどよしをなみ外のみにして歎きぞ我がする
千鳥鳴く佐保の川門の清き瀬を馬うち渡しいつか通はむ
夜昼といふわき知らず我が恋ふる心はけだし夢に見えきや
つれもなくあるらむ人を片思に我れは思へばわびしくもあるか
思はぬに妹が笑ひを夢に見て心のうちに燃えつつぞ居る
ますらをと思へる我れをかくばかりみつれにみつれ片思をせむ
むらきもの心砕けてかくばかり我が恋ふらくを知らずかあるらむ
かくばかり恋ひつつあらずは石木にもならましののを物思はずして
忘れ草我が下紐に付けたれど醜の醜草言にしありけり
人もなき国もあらぬか我妹子とたづさはり行きてたぐひて居らむ
今しはし名の惜しけくも我れはなし妹によりては千たび立つとも
うつせみの世やも二行く何すとか妹に逢はずて我がひとり寝む
我が思ひかくてあらずは玉にもがまことも妹が手に巻かれなむ
月夜には門に出で立ち夕占問ひ足占をぞせし行かまくを欲り
後瀬山後も逢はむと思へこそ死ぬべきものを今日までも生けれ
言のみを後も逢はむとねもころに我れを頼めて逢はざらむかも
夢の逢ひは苦しくありけりおどろきて掻き探れども手にも触れなば
一重のみ妹が結ばむ帯をすら三重結ぶべく我が身はなりぬ
我が恋は千引の石を七ばかり首に懸けむも神のまにまに
夕さらば屋戸開け設けて我れ待たむ夢に相見に来むといふ人を
朝夕に見む時さへや我妹子が見れど見ぬごとなほ恋しけむ
生ける世に我はいまだ見ず言絶えてかくおもしろく縫へる袋は