和歌と俳句

大伴家持

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我妹子が形見の衣下に着て直に逢ふまでは我れ脱がめやも

恋ひ死なむそこも同じぞ何せむに人目人言言痛み我れせむ

夢にだに見えばこそあれかくばかり見えずてあるは恋ひて死ねとか

思ひ絶えわびにしものをなかなかになにか苦しく相見そめけむ

相見ては幾日も経ぬをここだくもくるひにくるひ思ほゆるかも

かくばかり面影にのみ思ほえばいかにかもせむ人目繁くて

相見てはしましも恋はなぎむかと思へどいよよ恋ひまさりけり

夜のほどろ我が出てくれば我妹子が思へりしくし面影に見ゆ

夜のほどろ出でつつ来らく数多くなれば我が胸切り焼くごとし

百年に老舌出でてよよむとも我れはいとはじ恋は増すとも

をととしの先つ年より今年まで恋ふれどなぞも妹に逢ひがたき

うつつにはさらにもえ言はず夢にだに妹が手本をまき寝とし見れば

我がやどの草の上白く置く露の身も惜しくあらず妹に逢はずあれば

春の雨はいやしき降るに梅の花いまだ咲かなくいと若みかも

夢のごと思ほゆるかもはしきやし君が使の数多く通へば

うら若み花咲きかたき梅を植ゑて人の言繁み思ひぞ我がする

心ぐく思ほゆるかも春霞たなびく時に言の通へば

春風の音にし出なばありさりて今ならずとも君がまにまに

うち霧らし雪は降りつつしかすがに我家の園にうぐひす鳴くも

春の野にあさるの妻恋ひにおのがあたりを人に知れつつ

我がやどに蒔きしなでしこいつしかも花に咲きなむなそへつつ見む

我が君に戯奴は恋ふらし賜りたる茅花を食めどいや痩せに痩す

我妹子が形見の合歓木は花のみに咲きてけだしく実にならじかも

卯の花もいまだ咲かねばほととぎす佐保の山辺に来鳴き響もす

我がやどの花橘のいつしかも玉に貫くべくその実なりなむ

隠りのみ居ればいぶせみ慰むと出で立ち聞けば来鳴くひぐらし