夏まけて咲きたるはねずひさかたの雨うち降らばうつろひなむか
我がやどの花橘をほととぎす来鳴かず地に散らしてむとか
ほととぎす思はずありき木の暗のかくなるまでに何か来鳴かぬ
いづくには鳴きもしにけむほととぎす我家の里に今日のみぞ鳴く
我がやどの花橘は散り過ぎて玉に貫くべく実になりにけり
ほととぎす待てど来鳴かずあやめぐさ玉に貫く日をいまだ遠みか
卯の花の過ぎば惜しみかほととぎす雨間も置かずこゆ鳴き渡る
夏山の木末の茂にほととぎす鳴き響むなる声の遙けさ
あしひきの木の間立ち潜くほととぎすかく聞きそめて後恋ひむかも
我がやどのなでしこの花盛りなり手折りて一目見せむ子もがも
望くだち清き月夜に我妹子に見せむと思ひしやどの 橘
妹が見て後も鳴かなむほととぎす花橘を地に散らしつ
なでしこは咲きて散りぬと人は言へど我が標めし野の花にあらめやも
聞きつやと妹が問はせる雁が音はもことも遠く雲隠るなり
我がやどの一群萩を思ふ子に見せずほとほと散らしつるかも
我がやどの尾花が上の白露を消たずて玉に貫くものにもが
妹が家の門田を見むとうち出で来し心もしるく照る月夜かも
今日降りし雪に競ひて我がやどの冬木の梅は花咲きにけり
沫雪の庭に降りしく寒き夜を手枕まかずひとりかも寝む