熊野路に只夏念仏を申かな白雄
節
眞熊野の浦囘にさける筐柳われもたむけむ花の窟に
節
眞熊野のすずしき海に飛ぶ文魚の尾鰭張り飛び浪の穗に落つ
節
山桑の木ぬれにみゆる眞熊野の海かぎろひて月さしいでぬ
牧水
船にしていまは夜明けつ小雨降りけぶれる崎の御熊野の見ゆ
晶子
熊野にて雨の降る日に唯だ一人柑子を食めばあぢきなきかな
晶子
あかつきの熊野の山の片はしと黒髪うつる船ばたの水
晶子
静かなる熊野の山と水のぞく小き空は黒く塗らまし
晶子
熊野路の黒き家並も磯に立つ波もかなしや旅の女に
晶子
雨多き熊野に来り日も夜もしみじみものの思はるるかな
迢空
朝の間の草原のいきれ。疲れゆく 我を誰知らむ。熊野の道に
牧水
熊野なる鰹の頃に行きあひしかたりぐさぞも然かと喰せこそ
熊野路の埃によごれ藪柑子 野風呂
八潮路のさはの鰤場や熊野灘 野風呂
下り簗だだ漏れ熊野川通る 誓子