和歌と俳句

釈迢空

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熊野

朝海の波のくづれに、あるく鴉。ここの岸より行くわれあるを

鳥の鳴く朝山のぼり、わたつみのみなぎらふ光りに、頭をゆする

朝の間の草原のいきれ。疲れゆく 我を誰知らむ。熊野の道に

朝あつき村を来るはなれ、道なかに、汗をふきつつ もののさびしさ

浜名

昼あつき家にこもれば、浜風の まさごはあがる。竹の簀の子に

夕かげの まほなるものか。をちかたに 洲崎の沙の、静まれる色

夾竹桃

さめざめと 今朝は霧ふる夾竹桃。片枝の荒れに、花はあかるき

群花の垂り著けれど、まともには、色おとろへず。夾竹桃の花

わが庭に、夾竹桃はしなえたり。ほこりをあびて、町より戻る

夕かげの庭のおくかの 隅深く片あかりして 夾竹桃はある

たまたまに目に属りやすらふ。いぶせさは、夾竹桃の花にさだまり

古がめに一枝をりさし はればれし。庭にも 内にも、夾竹桃の花

提燈のあかりののぼる闇の空 そこに さわめく 夾竹桃の花

片枝のすがれは、まほに あらはに見ゆ。日だまりに照る 夾竹桃の花

血あえたる汝がむくろを、いぬじもの 道にすてつつ 人そしりけり