熊野なる 鰹の頃に ゆきあひし かたりぐさぞも 然かと喰せこそ
むさぼりて 腹なやぶりそ 大ぎりの これの鰹の 限りは無けむ
あなかしこ 胡瓜もみにも 入れてある これの鰹を 残さうべしや
比叡山の 孝太を思ふ 大ぎりの つめたき鰹を 舌に移す時
末うすく 落ちゆく那智の 大瀧の そのすゑつかたに 湧ける霧雲
白雲の かかればひびき 打ちそひて 瀧ぞとどろく その雲がくり
まなかひに 那智の大瀧 落つれども こころうつけて よそごとを思ふ
暮れゆけば 墨のいろなす 群山の 折り合へる峡に ひびくおほ瀧
朝なぎの 五百重の山の 静けさに かかりてひびく その大瀧は
こほろぎの しとどに鳴ける 真夜中に 喰ふ梨の実の つゆは垂りつつ
厨辺に 井戸のあたりに 塀越えし 小路にこよひ 虫なきしきる
六歳の兄 四歳の妹の ならび寝て かたりあふ聞けば 癒えて後のこと
みじか夜の 有明の月の かすかにて ひんがしの空に 雲焼くるなり
ひんがしの 朝焼雲は わが庭の 黍の葉ずゑの 露にうつれり
朝焼けの 雲は杳かに 散りゆきて 水色のそらと いまは澄みたり
わがねむる 家のそちこち 音にすみて こほろぎの鳴く 夜となりにけり
露を帯び 垂れてまろけき 向日葵の 花にさす日の 秋めきしかな
露帯びて うなだれ咲ける 向日葵の 秋づける花を なつかしみ見つ