和歌と俳句

若山牧水

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13

くもり日の 森の深みに さまざまの 声して遊ぶ が群きこゆ

なにかいひ 何かささやく 曇日の がねいろは 人声に似る

曇りゆく 部屋の寒きに たちいでて そぞろに居れば 啼きわたる

うら寒く 空の垂れたる 野の末に 薄紅葉せる 低き森見ゆ

ゆきゆきて 飽くとkそせね 初冬の うす日さす野を そぞろ行きつつ

落葉焚く けむりのかげに ほの見えて 垣根に赤き 寒薔薇の花

よべ降りし あらき時雨に 土はねて 垂りしダリアの 花にかかれり

みのらねば 刈らで置かれし 捨小田の 枯れし稲穂に 雀あそべり

窓に来む 冬の日ざしを たのしみて 待ちつつぞ見る 椋の黄葉を

からす瓜 はひのぼりゆきて 痩杉の こずゑに赤き 実を垂らしたり

木の間より われにさしたる 冬の日の 日かげは寒し 光りながらに

かげりつつ やがて冷く 曇りたる 裏の木立に 風わたるなり

切りとりて いまはすくなき 花のかず 冬ちかうして ダリヤ畑に

見つめゐて なにか親しと おもひしか ころげ落ちたり 冬照る庭に

掘りあげし 蔓の藷より はらひ落す 真くろき土は 雨のごと落つ

掘りあげし 枯草の畔の 土藷の つち真くろくて 永く乾かぬ

もみぢ色の 濃き洋服を 着しをとめ たけ同じきが 二人あゆめり